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認知症と歯科

[第7回]

日本歯科大学新潟病院 訪問歯科口腔ケア科 准教授 白野美和先生

2016年6月2日

口腔清掃の低下+嚥下機能の低下→誤嚥性肺炎のリスク増加

認知症になると、歯磨きの習慣や方法を忘れたり、気力の低下によって歯磨きをしなくなったりして、口の中を清潔に保てなくなってきます。今まできれいに歯磨きできていた方ができなくなってしまったことから、かかりつけの歯科医が初期の認知症に気づくということは決して珍しくありません。

口腔内を清潔に保てなくなると、虫歯や歯周病にかかりやすくなります。これに加え、認知症が進行すると嚥下(えんげ)機能(飲み込む機能)にも問題が生じるため、死亡の直接原因ともなる『誤嚥(ごえん)性肺炎』を引き起こすリスクも高まります。

誤嚥性肺炎は、口の中の細菌が誤嚥により肺に入ってしまうことで発症しますが、誤嚥すれば必ず発症するものではなく、“口の中の細菌数”と“本人の免疫力”、そして“誤嚥頻度”の3要素が関係しています。多くは眠っている間の気付かないうちに、唾液と一緒に口の中の細菌を誤嚥してしまう『不顕性誤嚥』が原因になるとされています。ですから誤嚥性肺炎を予防する手段の一つとして口腔内の細菌数を減らしておくことは大変有効です。

本人が歯磨きを忘れるようであれば、家族で食後に声を掛けること、歯ブラシを手にすることやうがいの準備などが難しいようであれば、手伝うことが必要になります。また、ちゃんと磨いているように見えても実は一部しか磨いていなかったということもあるので、磨いている様子も観察してください。

認知症が進むと、磨くこと自体が難しくなります。家族が代わりに歯を磨こうとしても口を開けてくれないこともあります。また、誤嚥性肺炎を繰り返してしまう方や胃ろう、鼻からチューブを入れて栄養を取っている方は口腔清掃時に口の中の汚れを誤嚥するリスクが高く、さまざまな注意が必要になりますので口腔清掃の方法について専門的な指導を受けたほうが良いでしょう。









認知症の方の口腔清掃を家族だけで行うことはとても大変なことです。悩みを抱え込まずに歯科医師に相談してください。各職種(歯科医師、歯科衛生士、看護師、ヘルパー、介護士など)が連携して毎日の口腔清掃をサポートすることも可能です。


入れ歯と認知症

まずは、入れ歯の不具合をうまく訴えることができなくなり、問題が放置されやすいということが挙げられます。食事をしようとしない認知症の方が、実は入れ歯の不具合が原因で食べなくなっていたということもあります。例えば、入れ歯が沈み込まないようにするための金具が壊れていたケースがありました。かむたびに入れ歯が沈んで歯茎を傷つけるため、口の中に大きな傷ができていたのです。痛くて食べられないのですが、本人が訴えることができないため周囲が気づかないのです。入れ歯が壊れていなくても、顎の形が変わることで入れ歯が合わなくなることもあります。食事の際に異変を感じたら、入れ歯の不具合も疑ってみてください。

認知症が進むと、入れ歯を入れ歯だと認識できなくなることもあります。口に入れることを拒んだり、投げつけてしまったりすることもあります。また、一見口を動かしてかんでいるように見えても正常なそしゃく運動ができておらず、入れ歯を装着していても食べ物を細かくすることができなくなることもあります。このようなケースでは食品の形態のほか、場合によっては入れ歯を入れずに食べることも検討します。更に進行し、意識レベルの低下がみられるときは入れ歯を飲み込んでしまう危険性もあるため入れ歯の使用をやめていただく必要がでてきます。


口腔内の状態悪化が認知症に影響を及ぼす?

口腔内の状態と認知症の関係についてさまざまな調査や研究がされています。

かむことが脳の活性化につながることは以前から知られていますが、神奈川歯科大学が行った調査(2012)では歯がほとんどないうえに入れ歯も使用していない人は、20本以上歯が残っている人の1.85倍も認知症になるリスクが高いということを報告しています。よくかむことが脳を活性化させるとともに、必要な栄養をしっかりとれるためこのような結果をもたらしたと考えられます。

また、名古屋市立大学の研究チームでは歯周病に罹患させたマウスと罹患していないマウスを比べると海馬へのアミロイドβタンパクの沈着が歯周病マウスの方が面積で約2.5倍、量で約1.5倍に増加することなどを報告しています。アミロイドβタンパクはアルツハイマー型認知症の原因物質と考えられています。マウスでの実験ではありますが、歯周病の治療が認知症予防や進行抑制につながることも期待されます。

この他にもさまざまな研究がなされており、今後更に口腔内の状態と認知症の関わりが明らかになっていくことでしょう。

認知症になる前に治療を

認知症が進行すると、治療のために長い時間座っていることや口を開くことができなくなることがあります。一本の歯を治療するのにも大ごとになってしまいます。健康なうちから、かかりつけの歯科医院で定期検診をするのはもちろんですが、元気なうち、あるいは認知症初期の段階で必要な歯科治療を済ませておいてください。それによって認知症が進行する過程で大きな治療をする必要がなくなりますし、清掃も容易になります。通院が困難な場合は訪問歯科診療や訪問口腔ケアを利用するなどの方法もあります。

まとめ


認知症患者さんは・・・

・口腔清掃が不良になることに加え嚥下機能が低下するため誤嚥性肺炎のリスクが高くなる

・入れ歯の不具合が気付かれずに放置されやすい。入れ歯の使用が困難となる時期もある。

・口腔内の状態と認知症の関係がさまざまな調査・研究で報告されている。

・認知症が進行する前に必要な歯科治療をすませておくとよい。



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