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認知症と摂食機能障害

[第8回]

日本歯科大学新潟病院訪問歯科口腔ケア科 歯科医師 吉岡裕雄先生

2016年7月5日

肺炎予防は口腔ケアと食事から

 肺炎は現在、日本における死亡原因の3位になっています。かつては肺炎で運ばれてきた患者さんに対して肺の治療だけに専念していましたが、口腔内環境や誤嚥(ごえん)との相関関係がはっきりして以降、肺炎治療と同時に歯科と連携し、再発防止のため口腔内環境を整えるようになっています。

 肺炎には①口腔内の衛生状態②食物を飲み込む力③栄養状態や体力—が関わってきますが、肺炎に罹患された患者さんを診ると、その全てに問題がある方がほとんどです。これはいずれも食事に関わることなのです。再発防止のために私たちは、食事に関する行為を5期に分け、どこに問題があるか検討します。

摂食における5期モデル

認知期~食べ物がどのような食べ物であるかを認識する時間

 認知症の場合、目の前のものが食べ物であると認識できないことがあり、

 じっと見ているだけ、いったん口に入れてもかまずにじっとしているということが

 あります。

そしゃく期~食べ物をかむ時間

口腔期~口の中でかんだ食物を舌で集めて喉に流す時間

 舌の働きが鈍くなると、食べ物を飲み込む動作に入ることができなくなります。

咽頭期~食物が喉を通過する時間

 わずかでもタイミングがずれるとむせたり、誤嚥を起こしたりします。

 認知症でない方でも体力の衰えとともに頻度が上がってきます。

食道期~喉を過ぎて胃に向かって食道を通過している時間


 一本も歯がなかったきんさん・ぎんさんが、誤嚥もせず元気に食べておられたのを覚えていますか?極端な話ですが、歯は摂食における決定的な要素ではありません。摂食において最も重要なのは舌の働きです。歯でかめるように食物を歯の上に集めるのも、喉に流すのも舌、そしてほおの動作。歯科界では近年、舌の働きに注目が集まっています。



「舌圧」が歯科界のトレンド

 従来から口腔がんの術後の方たちを対象とした、舌の動きを補助する舌接触補助床(PAP)がありました。これを作るときに舌圧を計るんですね。誤嚥性肺炎を起こす要介護者らに対しても、舌圧を計ると口の機能を評価する上で有用と考えています。

 ご家庭で介護をされている方は、要介護者の食事に時間がかかる場合は舌の働きを見てください。チェック方法は以下の3つです。

食べた後、口の中に食べ物が残っている

「舌を出して」と言って、下唇よりも先に舌が出てこない

舌を左右に動かす動作をしようとしても、舌ではなく顎が動いてしまう

これらに当てはまるものがあれば、舌の機能が衰えていると考えられます。おそらく食事にも時間がかかっているはず。食事をしっかり取れなくなると体力低下に直結しますが、食事に時間がかかること自体、体力や機能低下のシグナルでもあります。まずはケアマネジャーさんらに相談して、歯科受診の検討をお勧めします。「相談して」と申し上げたのは、まだ舌の機能に注目が集まって間もないため、全ての歯科医院で対応しているとまでは言えないからです。

 食事に時間がかかること自体は病気ではないので、治療ではなくトレーニングをすることになります。トレーニングは、実際の食事を行うことで機能を維持向上する直接訓練や、口や首の周辺の筋肉を鍛える間接訓練などがあります。舌圧を鍛えるための「ペコパンダ」という器具も今は市販されています。

 ただし舌だけ鍛えても、別のところに原因がある場合もありますので自己判断は避けてください。


食べることと話すこと

 私たちは口の機能のどこに問題があるか見当をつけるため、患者さんに「パ・ン・ダ・ノ・タ・カ・ラ・モ・ノ」と言ってもらうことがあります。その発音によって、問題点をある程度予測するのです。食事をするための機能は、話すための機能と重複しているところが多いことから判断ができるのです。

 ですから、食事をする機能を落とさないためには、おしゃべりをすることも訓練の一つなのです。介護の現場でよく言われることの一つに「テレビに介護をさせるな」というものがあります。テレビは一方的に受けるだけで返す必要がない。言葉を発する必要がないんですね。

 食べられなくなれば衰弱しますが、それ以上に生きる上での大きな楽しみの一つを失うことになります。できるだけ話しかけ、要介護者がおしゃべりをする機会をつくってあげるのも食事をする機能の維持にとって大切なことです。

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