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これからの歯科診療に求められること

【第10回】

日本歯科大学新潟病院 院長 山口 晃先生

2016年9月8日

口腔ケアが認知症を抑制する!?

 高齢者の誤えん性肺炎、これはそのまま肺炎による死亡リスクということになりますが、歯周病や口腔清掃不良によってこれらのリスクが高まることは、歯科のみならず医科でも広く認知されています。ですから認知症の方に限らず、体力が落ちた術後や、抗がん剤治療で免疫力が落ちる患者さんにおいても、まず口腔ケアを行ってもらうということが常識になってきています。

 歯と認知症との関わりは、経験として以前から言われていたことですが、認知症の方の多くは歯が少ない。認知症だから歯がなくなるのか、歯がなくなったから認知症になるのかは定かでありませんが、残っている歯の本数が少ない方が認知症発症リスクが高いという報告がなされています。マウスでは歯があれば認知症の症状が回復するケースも確認されており、今後の研究が期待されるところです。

 また、アルツハイマー型の発症に関わるアミロイドβは、年を取れば少なからず脳に蓄積されますが、噛むことで蓄積を抑制するのではないかという研究が進められています。さらに、歯周病菌が血流に乗って脳の炎症を起こすことが認知症発症と関係しているのではないかという研究もあります。今後研究が進み、口腔ケアで認知症の予防や進行を遅らせることができるという結果が明らかになることを願っています。

 日本人は肉食中心の文化圏と比べると歯に対する関心が薄く、歯科は「痛みが我慢できないときに行く」と考えておられる方が多いですが、口は消化器官と直結した入り口ですから、健康を維持するためにぜひとも普段からのケアを大事にしていただきたいですね


訪問歯科に求められるスキル

 歯科医師のほとんどは開業医になります。医院を構えて患者さんを待つわけですから、本当はそうじゃないかもしれないけれど「健康な人が来る」と思いがちです。

 対して訪問診療は「健康ではない人を診る」わけですから、患者さんの全身のことをある程度まで分かっていなければならないし、診療中に急変する場合も想定して、どんなことが起きうるか、また起きたときにどう対処するかを把握しておかなければなりません。さらに、その日の患者さんの様子をチェックし、血圧なども調べて、治療が難しいようなら負担のないケアで終わらせるという判断も必要になります。

 私達の病院は、日本で唯一の訪問歯科を専門とする診療科を持っており、病院実習を行う5年生と免許を取った後の研修医は全員訪問診療に同行して経験を積んでいます。認知症を理解し、患者さんの接し方を身につけるという点でこうした経験は非常に重要です。さらに地域包括ケアをにらんで、地域歯科医療の核となる歯科医師には当院で研修を受けてもらっています。地域包括ケアも訪問歯科も、全体から見れば始まったばかり。これまで積み上げてきたものを崩さず、新たに積み上げていけるよう、皆さん細心の注意と志を持って臨んでいます。


歯科から見た地域包括ケアの理想

 今ようやく「待つ歯科」から「出て行く歯科」が始まったばかりですが、次は「調整する歯科」を育てなければならないと考えています。口腔ケアと認知症、全身の相関については前半で、それに他の先生も述べていますから口腔ケアの重要性と、医歯学連携が必要なことはご理解頂けたと思います。「調整する歯科」というのは、単に横の連絡をするということではありません。「あっちへ行って診てもらって」では患者さんにとってはたらい回しですよね。そうではなく、患者さんのQOL(クオリティー・オブ・ライフ)を最大にする治療は何かをともに考え、方針を立てていく。そこにしっかり参画していける歯科のことを指しています。

 若手の歯科医師は意識の高い人が多く、彼らにとても期待しているのですが、個々の努力だけではままならない部分もあります。地域包括ケアも含め何らかの会議が立ち上がると、そのメンバーは医師+歯科か薬剤師か看護師という構成が、最近まで続いていました。参画したくても呼ばれないのでは始まらない。ですから社会全体に「口腔ケアは大事」と認識を新たにしてもらうような努力もしていかなければなりません。

 昨年まとまった新オレンジプランでは、認知症の早期発見において歯科医と薬剤師の役割の重要性が明記されました。歯科は定期検診があるので異変に気づきやすく、またほとんどの方が家族で同じ歯科を受診しますから家族の方とも話ができる。薬剤師は薬が減っていないことで異変に気づきます。早期に発見して適切な治療を行えば、進行を鈍化させることは可能です。

 歯科からは離れますが、認知症サポーターという制度をご存じですか?認知症を理解して社会の中でサポートするための制度で、特別資格ではないですが研修を受ければ誰でもなれるので、学生には必ず研修を受けさせています。また、病院教職員には認知症サポーター育成に関わるキャラバンメイトになるよう勧めています。

 何でもそうですが、怖いという感情は知らないから起こる。親が認知症になることに対処ができ、自分が認知症になることを過剰に恐怖しないため、恐れるのではなく、認知症を多くの方に知ってほしいのです。さらに言えば、認知症サポーターが大勢いる地域は認知症の人が暮らしやすい、認知症でない人にとっても暮らしやすい地域になれると思います。皆が参画してそうした地域を作っていくことが、地域包括ケアの本質ではないでしょうか。


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