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2025年まであと10年 医療と介護が激変する

10年後の日本では何が起こるのか、武藤正樹先生に聞きました

国際医療福祉大学大学院 教授 武藤正樹 先生

2016年9月10日

  • 在宅介護
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少子高齢化が進む日本。10年後の2025年には700万人というボリュームを持つ団塊世代が75歳以上に突入します。その時までに、限られた資源をどう再編してゆくか。医療と介護だけでなく行政、企業、市民それぞれが否応なしに変わらなければならない日が、そこまでやってきています。厚生労働省の各種委員を務めてきた武藤正樹国際医療福祉大学大学院教授に聞きました。

日本がもし1000人の村だったら

—今でも十分高齢者は多いので、2025年のインパクトにピンと来ないのですが。

現在の75歳以上人口は1600万人弱で12.5%ですが、10年後には18%。65歳以上人口で30%です。1億2000万人の中でこれだけの高齢者人口を持つというのは、人類誕生以来初めてのことでしょう。日本の真ん中に、カナダより大きな高齢者だけの国があるのと同じなんです。

分かりやすく人口1000人の村に例えると、65歳未満が700人しかいない村で、認知症になったり寝たきりになったりする可能性の高い後期高齢者180人を支えながら、生産活動も子育ても何もかも、生活のあらゆることをやって、なおかつ文化的な活動もして生活の質を保っていく。どうすればできるんですかという話です。

—高齢者を前期と後期に分けて話しておられますが、両者の違いは?

例えば骨折。若い人なら手術して入院して、しばらくリハビリをしたら社会復帰しますね。1エピソードで終わる。ところが高齢者だとリハビリ→退院→要介護になることも少なくない。しかもその1エピソードの後ですぐに次のエピソードがやってくる。医療と介護の間を行ったり来たりというのが顕著になるのが75歳以上、後期高齢者の特徴です。男性だと亡くなるまでに3~5回、女性は長生きですから5~8回。この医療と介護のケアサイクルを繰り返します。ですから支えていくためには医療と福祉の連携が、どうしても必要になる。

衝撃の「看取り」問題

—団塊世代が2025年から医療と介護のケアサイクルを経て、十数年後には大量死がやって来ます。

結論から言うと、病床数(=病院のベッド数)が横ばいならば在宅死を増やす。家庭での看取りを増やしていくしかないんです。現状で年間120万人ほどが亡くなりますが、2030年から2040年の間は160万人になります。今は80%が病院で亡くなっていますから96万人ですね。この数はそのままとして、64万人の死に場所をどうするかです。死亡診断書には「その他」という項目がありまして、内訳は「山・川・路上」なんですけど、団塊世代の死に場所を山・川・路上にしていいんですか。

—家庭での看取りを増やさなければならないということですね。

以前新潟で在宅医療をやっていた時、こんなことがありました。呼ばれて看護師と、真夜中のたんぼ道を駆けつけたら別の車に追い越された。それは若い坊さんで、家に駆けつけたときは地域の人たちと坊さんで既に祭壇があり、おばあさんにはもう白布が掛けられて。布団をめくったら両手が縛ってあって脇差しを持たされているので、それをほどいて心音と肺音を聴いて「亡くなっています」と。お経を聴いて帰ってきましたけどね、それくらい地域で準備万端の看取りができるところはいいですよ。東京だったらマンションで亡くなって3週間くらい見つからないということが起きる。

—でも、同居していたとしても高齢の親が亡くなる時どうすればいいか。

そう、分からないですよね。だから皆さん救急車を呼んじゃうんです。それで今起きているのは、病院に到着した救急車のハッチを開けると、死後硬直しかかった遺体が載っているというパターン。救急車だって限られた資源ですから、死亡診断のために使うべきではない。ですから今、在宅医療専門の診療所の整備と人材育成の議論をやっています。従来は訪問診療をするにしても、診療所を開くなら外来の受け入れもやらなければならなかった。両立は非常に困難で、外来に来る人を拒まないでいると訪問診療に出て行く時間がない。それで訪問のみの診療所の開設ができるようになりました。それから在宅医療支援診療所、支援病院の施設認定基準に「看取り件数」が入りました。国が在宅医療、在宅看取りができやすい環境整備を整えています。

—在宅医療が充実すればあたふたしないで看取りを迎えられますね。

看取りを想定して体制を作ることの良い点は、いつ訪れるか分からないその時の備えを具体的に考えられるということです。必然的に24時間365日の体制を作らなければならないと分かりますね。すると駆けつけられる範囲に複数の医療スタッフを置かなければならないでしょう。24時間在宅看取りばかりするわけではなく、その間を在宅医療を充実させることに費やせる。ですから、在宅の看取り件数が、在宅医療の充実を測る一つの指標になっていくでしょう。


認知症患者をどう支えるか

人口1000人の村に話を戻しますよ。2025年に180人いる75歳以上人口のうち、1/4の45人は認知症を患っています。75歳未満でも発症しますから実際にはもっと多い。本当に1000人の村だったらまだいいんです。ひとり一人が分かるから。広島県の鞆の浦、「崖の上のポニョ」の舞台になったところですが、あそこは「認知症フリーゾーン」というのを掲げています。活動性があるのを閉じ込めずに、地域で緩やかに見守ることを始めている。

—活動性にどう対処するか、介護する家族をどう支えるか。認知症を想定すると幾つか具体的に見えてくる課題がありますね。

先日イギリスの認知症対策を見てきました。日本は認知症400万人かという話なのに、向こうは現状80万人。100万人に達しそうだというので国家プロジェクトなんですが、よくできているんです。まずは早期受診。現状40〜50%の認知症の診断率を67%に引き上げようとしている。そのために、地域ごとに認知症患者数を推計して実際行われた診断件数と照らし合わせている。日本はかなり未診断が多いので、これはやるといい。そして開業医に認知症診断の訓練を施し、多職種の初期集中対策チームを作っている。活動性に対してはリング型やペンダント型のGPS装置。普及率はもう95%です。日本もやろうと思えばできますよ。もう一つすごいのは、介護する家族(=ケアラー)支援の法律を作っちゃった。ケアラーは支援を受ける権利があるとか、自治体はケアラーのアセスメントを行う義務があるとか。日本では介護離職が年間8万人もいるんですよ。これからどんどん就労人口が減っていくのに、これを放置していたら社会が成り立たない。

ひとり一人の認知症に対する準備

—日本では認知症に対して恥、あるいは恐怖のようなものがありますが。

ずいぶん変わってきて、早期受診は増えてきていますが、社会全体で変えていく必要がありますね。認知症というのは、じわじわ進行する人もいるけれど、朝起きたら突然なっていたというケースもある。想像してみてください。ある朝起きたら親が認知症だった。心の準備が全然できていない。困るでしょ?

—準備できることはあるのでしょうか?

想像をたくましくして備えることと、周囲にいるでしょう?「隣のおばあちゃん認知症だってさ」と他人事で終わらせるのではなく、一緒に見守るためにできることがあるはずです。ユマニチュード(=認知症の人とのコミュニケーションのあり方)というのがあるんだけど、あれは学ぶべきです。例えば後ろからじゃなくて前へ回ってから話しかけるとか、上からじゃなく下から支えるように触るとかなんですが、これは人との接し方として認知症だけじゃなく全ての人に対して当てはまること。子どもの教育から始めてほしいことです。まずは家族、そしてご近所からスタートしてください。認知症に対して理解すること、誰かに教えることが、イコール認知症に対処できる地域づくりになります。まずは認知症サポーターの研修に参加しましょう。

医療介護の認知症に対する準備

—では医療介護分野ではどのような準備を進めているのでしょうか?

看取り問題で話したように、在宅医療の充実を進めているのが一つ。認知症対策においても在宅医療が重要なのは、一人暮らしで認知症になってしまったら当人が病院へ来ることはまずないからです。そして認知症に罹ると他の疾患にも罹りやすく、寝たきりになってしまうケースが少なくない。

—先に伺った医療と介護のサイクル。つまり連携が必要ということですね。

連携の橋渡しを期待して地域包括支援センターが立ち上がったんですが、始まってみたら介護予防で手一杯になってしまった。それで今年から医療介護一括法が施行されて、医療と介護を連携する地域支援事業の取り組みが市町村の権限と予算で始まったところです。

—新潟市では医師会の中に、ソーシャルワーカーと看護師と事務スタッフという形でスタートしました。

難しいのは、医療と介護では集まって会議をしてもボキャブラリーが違っていて、同じ言葉を違う意味に解釈しちゃうほどかみ合わないこと。それから市町村はこれまで医療をやったことがないから、どこの部局がやるんだ?というところからつまずいてしまことです。そうしたことに橋を架ける作業をしつつ、一方で在宅医療を増やし、住民も気軽に参加できて、認識を共有するための「ケアカフェ」のような場をできるだけ多く作っていく。医療は生活の中の一部であって、生活の方がはるかに重要です。医療関係者は自分たちの役割が限定的であること、患者の生活全体を見なかったら適切な医療ができないことをもっと認識すべきですね。

連携の鍵 薬剤師と保健所

—他の専門分野を持つ人のコミットは?

重要です。例えば夕張。100床あった病院が維持できなくなって全部在宅になったんだけど、在宅医療の医師は数年で交代するでしょ。あそこには優秀な薬剤師がいて、その人がいないと夕張はもたないと言われるほどになっている。現状では医師の訪問診療に薬剤師が帯同してもそれで点数はつかないけど、家族からの質問は案外薬に関することが多いし、薬の処理も非常にスピーディーになる。薬剤師は全国で15万人いるから開業医より多いんですよ。ぜひ外へ出て活躍してほしい。

 それから保健所。市町村は医療をやったことないけど、保健所は医療分野との繋がりがあるんです。保健所が培ってきた医療分野との繋がりをどんどん活用してほしい。

看取りも認知症も、医療介護を超えた地域の問題

私はいま東京都内の葛飾、練馬、文京区で在宅医療連携協議会の座長をやっていますが、特に役所はどうしても数年で部署が変わります。その地域に対して愛着を持って「自分の暮らす地域をこうしていきたい」という思いを持っている人物が必要です。それがどういう立場の人でも構わない。だって、地域の生活の問題なんだから。医療介護分野の連携の場だって、フォーマルじゃないかたちで他の業種の人だって作れる。サービスを受ける側や家族の窓口も、地域の茶の間でも良いし、コンビニも始めようとしている。2025年の医療福祉は、それぞれが決められた役割とルールのもとでプレイするのではなく、その場その場でリーダーシップを発揮できる人材がリードする、その場にいた誰でもがプレイに参加する。そんな風に変わっていかなければならないんです。

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